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大阪地方裁判所 平成元年(わ)1407号 判決

主文

被告人を懲役一年二月に処する。

未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに

第一  平成元年四月二二日ころ、大阪市東淀川区〈住所省略〉先路上に駐車中の普通乗用自動車内において、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶約〇・〇五グラムを水に溶かし、自己の身体に注射して使用し

第二  同月二四日午前二時三〇分ころ、同区豊新一丁目六番一八号大阪府東淀川警察署内において、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶約〇・〇〇一グラム(平成元年押第三三八号の1のビニール袋に在中していたもの)を所持し

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

なお、被告人が所持していた判示第二の覚せい剤は〇・〇〇一グラムと微小量であるので、この点につき付言する。

前掲各関係証拠によれば、右覚せい剤は押収してある平成元年(押)第三三八号の1のビニール袋(パケ)中に付着していたものであるが、被告人が平成元年四月二一日に西成区内飛田でやくざ風の男から現金一万円で買い受けて所持していたものの一部であり、同月二二日ころの井高野公園先路上(車内)における判示第一の犯行において注射費消したその余の残量であること、被告人はこれを判示第一の犯行後も捨てないで自分のセカンドバックに入れて所持していたが、その理由は、無造作に捨てたりすると、パケに付いている指紋等から足がつき、自分がなおも覚せい剤と関わりを持ち判示第一の犯行などに及んだ事実の発覚に繋がることを恐れたからであること、これをセカンドバックに入れて所持していたのを東淀川署の係官に発見され、覚せい剤ではないかとの疑いを抱いた係官が被告人の同意を得てうちごく微量を費消しマルキース試薬による予試験を実施したところ陽性であったこと、被告人から任意提出を受けて領置した係官において直ちに科学捜査研究所に鑑定嘱託し、同研究所技術吏員により鑑定されたところ、その時点での資料量は〇・〇〇一グラムでありフェニルメチルアミノプロパンの含有が認められるとの鑑定結果であったこと、右鑑定に際し約〇・〇〇一グラムの資料が費消されたため、右鑑定後の残量は約〇グラムとなったこと、その後当公判廷において「覚せい剤が入っていたビニール袋」(証拠物)として取調べの上、現に当庁で領置中であるが、肉眼での観察によるもそのビニール袋中にはいまなお微小量の白色粒子の付着が認められること、最近の西成あたりで密売されている覚せい剤の純度は一般に八〇~九五パーセントと比較的高いものが多いこと、かつて市販されていた覚せい剤製剤ゼドリン錠(武田薬品工業株式会社)一錠中のフェニルアミノプロパン含有量は〇・〇〇一グラム、同ヒロポン錠(大日本製薬株式会社)一錠中の塩酸メタンフェタミン含有量も〇・〇〇一グラムで、これらは最初各一~二錠ずつ服用すべきものとされていたこと、覚せい剤の薬理効果の発現についてはもともと個人差が著しく、〇・〇〇〇五グラムでもその発現をみることがあるとされていること等の事実が明らかであるが、これらによれば、被告人が判示第二の日時場所で所持していたものは、フェニルメチルアミノプロパン含有の白色結晶で、その量は〇・〇〇一グラムにマルキース試薬による予試験費消相当分をプラスしたもの(訴因との関係で、当裁判所としては、「約〇・〇〇一グラム」以上の量であるとの認定はできない)であるが、かつて市販されていた覚せい剤錠剤一錠中に含有の覚せい剤成分とほぼ同程度量のものであることなどに鑑み、いまなお薬理効果の存在することが肯定され、覚せい剤取締法にいう「覚せい剤」であることは否定しがたし、やたらと捨てたりすると判示第一の覚せい剤使用事実などの発覚に繋がる恐れがあったとしてこれをセカンドバックに入れていた被告人には、それを覚せい剤として所持するという認識においても欠ける点はなかったとみるべきである。約〇・〇〇一グラムという微小量の覚せい剤であるため、これを対象とする所持がどの程度の処罰に値するのかその量刑に際して慎重な判断を要する点があるにしても、その犯罪の成否という観点からは、被告人の判示第二の所為もまた覚せい剤取締法にいう所持罪を構成するものといわなければならない。

(累犯前科)〈省略〉

(法令の適用)

一、判示第一所為

覚せい剤取締法一九条、四一条の二第一項三号

一、判示第二所為

同法一四条一項、四一条の二第一項一号

一、累犯加重

各刑法五六条一項、五七条

一、併合罪加重

同法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重)

一、未決算入

同法二一条

一、訴訟費用

刑事訴訟法一八一条一項但書(負担させない)

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 栗原宏武)

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